依存症基本知識
アルコール
1. アルコールの基礎知識
急性アルコール中毒
日本は、これまで出会った国民の中で、最良で、親切かつ名誉を尊ぶ。
日本人は食を節するが、飲酒のこととなると、それほどでもない。
フランシスコ・ザビエル(16世紀)
医学的には、急性アルコール中毒は、アルコールが体内に入り意識、知覚、感情、行動などが一時的に変化した状態をさします。単なる酔いもこの中に含まれます。しかし、一般的には、体にアルコールが入り過ぎて健康問題や生命の危険を生じるようになった状態を急性アルコール中毒と呼ぶことが多いでしょう。飲酒を慢性的にやめられない病気はかつて慢性アルコール中毒と呼ばれましたが、現在はアルコール依存症と命名されています。いわゆるアル中は医学用語ではありません。食中毒やサリン中毒のように、人体が毒で病んでいるという意味で「中毒」が用いられています。アルコールも他の毒物と同様に致死量を摂取すると死亡します。
1. 疫学
大学生の急性アルコール中毒死が社会問題になっています。アルコール薬物問題全国市民協会・イッキ飲み連絡防止協議会の調べによると、1986年以来に少なくとも90人以上の若い命が急性アルコール中毒で失われています1)。
東京消防庁が発表した急性アルコール中毒の救急搬送数を表1に示します2)。平成22年は20歳代が4,392人と約半数を占めます。
表1. 急性アルコール中毒の救急搬送数2)
東京都監察医務院が急性アルコール中毒死147例の分析を行ったところ、死亡例は35歳から60歳に多く、20歳代は11例でした。若者特有の病気ではなく、様々な年代で死亡例があります3)。
2. 症状
アルコールの中毒症状は、嘔吐、脱水、歩行困難、血圧低下、呼吸数低下、低体温などです。昏睡や死に至ることがあります。吐物を喉に詰まらせ窒息死することもあります。動物実験では血中アルコール濃度が0.4%を超えると2時間以内に半数が死亡します。
3. 対応方法および治療
激しい嘔吐、呼びかけても反応が乏しい、呼吸数の減少、失禁などの症状があれば病院を受診し、処置を受ける必要があります。躊躇しないで、病院を受診することが肝要です。
体を横向きにし、頭を反らせて気道を確保し、嘔吐しても吐物が口に再び入り込まないように、口元を床側に向けます。また、体温の低下を防ぐことも重要です。
アルコールは吸収が速いため胃洗浄はほぼ無効です。アルコールに対する解毒薬はないので、体内での分解を待つしかありません。軽症の場合は12時間以内に回復しますが、重症の場合は死に至ることがあります。
4. 予防
原因物質を摂取しなければ中毒になりません。体調を崩すことが分かっていながら飲酒を強要し、急性アルコール中毒で死亡させた場合は刑法第二百五条(傷害致死罪)が適用され、3年以上の懲役が科せられます。飲酒の強要を勢い付けて急性アルコール中毒にさせた場合は刑法第二百六条(現場助勢罪)が適用されます。泥酔者を放置した場合は刑法第二百十八条(保護責任者遺棄罪)が適用されます。泥酔者を放置して死亡させた場合は刑法第二百十九条(遺棄等致死傷)が適用され、3ヶ月から15年の懲役が科せられます。
すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、
飲酒についての節度を保つように努めなければならない。
酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律
参考文献
- http://www.ask.or.jp/ikkialhara_victims.html(平成24年7月)
- http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/201112/chudoku.html(平成24年7月)
- 杠岳文. 急性アルコール中毒. 河野裕明, 編. 我が国のアルコール関連問題の現状. 厚健出版, 1993.
著者
遠山 朋海