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依存症基本知識

アルコール
1. アルコールの基礎知識

飲酒とJカーブ

「酒は百薬の長」「ほどほどの飲酒は健康に良い」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。昔から言い伝えられている言葉ですが、これは本当なのでしょうか? 
 下の図は、1日の平均飲酒量と死亡率の関係を表したグラフです[1]。この図を見てわかるように、少量の飲酒をする人は、全く飲まない人に比べて、死亡率が低くなるという結果になっています。死亡率が最も低くなるのは、男性では1日アルコール量で20g以下の群です。これは、ビールで言えば1日500mlの缶1本以下、日本酒で言えば1日1合以下、焼酎では1日100ml以下に相当します(飲酒量の単位参照)。女性の場合は、おおむね男性の半分の量で同様の効果があるようです。当然のことですが、飲酒量が増えると、今度は逆に死亡率は上昇し、男性では1日40g、女性では1日20gより多くのアルコール量を飲酒すると、全く飲まない人よりも総死亡率が高くなります。1日60g以上の飲酒する男性では、全く飲まない人に比べて死亡率は1.4倍にもなります。 
 これは主に欧米人を対象にした研究の結果ですが、日本人を対象とした研究でも、おおむね同様の結果が出ています[2,3] 。このように、少量の飲酒によって死亡の危険率が下がり、さらに量が増えると逆に危険率が上がる効果のことを、死亡率のグラフが「J」のような形を示すことから、「Jカーブ効果」と呼んでいます。 
死亡率を下げる1番の要因として、心筋梗塞などの虚血性疾患で死亡するリスクが下がることが主な要因のようです。しかし、この効果については、以下のような点で、いくつかの議論があります。

  1. この効果に関する知見は、主にコホート研究という疫学的な研究から得られたものです。この研究のデザインでは、少量飲酒者で死亡率が低いことは言えても、それが少量の飲酒によるものかどうかの因果関係を表すものではありません。例えば、全く飲まない人の中に、元々健康を損ねている人がいるなどの理由で、非飲酒者の死亡リスクが高く現れており、そのために少量の飲酒者で死亡リスクが低く現れたという可能性も考えられます。
  2. この効果の1番の要因としては、虚血性心疾患のリスクを減らすことが考えられていますが、日本人は欧米人に比べて、虚血性心疾患のために死亡する割合は低いため、Jカーブ効果も欧米人よりは少ないことが予想されます。
  3. 日本人特有の特性として、遺伝的にアルコールを分解する能力が低く、飲んだ後に顔が赤くなる体質を持った人がいます(フラッシング反応について参照)。このような体質を持った人では、飲酒によって特に食道がんなどの癌のリスクが高まることがわかっています(アルコールとがん参照)。このような事情を加味すると、元々酒を飲むと赤くなるような体質の人では、比較的少なめの飲酒でもがんによる死亡率が上がる分、Jカーブ効果を享受できない可能性もあります。
  4. Jカーブ効果が認められるのは、先に述べたような総死亡率と、虚血性心疾患などのいくつかの疾患に限られています。また、健康問題以外の様々なアルコールによる社会的問題も、Jカーブにはならないことが示されています。

このように、「ほどほどの飲酒は健康に良い」ということは、根拠のある話であり、少量の飲酒が健康上のメリットをもたらす可能性はあるといえます。しかし、飲みすぎれば様々な健康上の問題を引き起こし、健康を害する結果になることもデータからは明らかです。そのため、現在全くアルコールを飲まない人が、健康のために無理に飲酒をすることにメリットがあるかというと疑問です。また、明らかに健康を害する量の飲酒をしていながら、それでも「ほどほどの酒は健康に良い」と言って飲み続けることもよくあることです。まずは、自分の実際の飲酒量がどのくらいなのかを把握することが大切です。

著者 
木村 充 


                                                       ( 文献(1)より引用) 

参考文献

1. Holman CD, English DR, Milne E, Winter MG (1996) Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality: a validation of NHMRC recommendations. Med J Aust 164: 141-145. 
2. Lin Y, Kikuchi S, Tamakoshi A, Wakai K, Kawamura T, et al. (2005) Alcohol consumption and mortality among middle-aged and elderly Japanese men and women. Ann Epidemiol 15: 590-597. 
3. Tsugane S, Fahey MT, Sasaki S, Baba S (1999) Alcohol consumption and all-cause and cancer mortality among middle-aged Japanese men: seven-year follow-up of the JPHC study Cohort I. Japan Public Health Center. Am J Epidemiol 150: 1201-1207.


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