依存症拠点機関事業

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依存症基本知識

アルコール
2. 飲酒と健康問題

ウェルニッケ・コルサコフ症候群

この言葉を初めてお聞きになる方もいるかもしれませんが、アルコール依存症者にしばしば発症する中枢神経疾患であり、急性期のものをウェルニッケ脳症、慢性期をコルサコフ症候群と呼びます1)。

1. ウェルニッケ脳症(急性期)の症状 
当院にアルコール依存症者が意識障害を伴って来院した場合に、ウェルニッケ脳症は頭部外傷と共に疑う重大疾患です。症状は意識障害と歩行障害(小脳失調歩行)、眼症状(眼振)で、これを3徴と呼びます。アルコール依存症者が酒を食事も摂らずに昼夜関係なくだらだら飲んでいるうちに(連続飲酒)、衰弱していき(低栄養)、うわごとをしゃべったり、幻覚が見えたりするようになり発症します。

2. ウェルニッケ脳症の原因 
ウェルニッケ脳症の原因はビタミンB1(VB1)欠乏ですが、アルコール依存症者の代表的な脳症との位置づけです。これはアルコール依存症者で、①食事を摂らずに飲み栄養失調になる、②下痢を起こしVB1の吸収不良となる、③アルコールがVB1活性化を抑制する、④アルコール分解にVB1が使われる、などB1欠乏を招きやすいからです。VB1は糖代謝に必須で、特に脳内では糖質のみがエネルギーに変換されるので、VB1欠乏により脳内での糖-エネルギー代謝が破綻し、脳症を引き起こします。

3. 診断と治療 
現在当院では、栄養障害/衰弱と意識障害があれば頭部CTで外傷を除外した上でウェルニッケ脳症を推定診断し(Caineのクライテリア)、VB1の大量投与(点滴)を行います。早期治療が救命につながり、後遺症(コルサコフ症候群)を減らす唯一の方法です。

4. コルサコフ症候群(慢性期)の症状と治療 
ウェルニッケ脳症の慢性期(後遺症)をコルサコフ症候群といい代表的なアルコール認知症です2)。しかし、はっきりしたウェルニッケ脳症がなくともコルサコフ症候群になる場合があり、低栄養・飲酒が関連したけいれん発作・飲酒歴などのリスクが指摘されています3)。コルサコフ症候群の方の頭部MRIを行うと、脳萎縮が顕著で海馬の萎縮が認められます(図)。 
治療は断酒・食事療法・リハビリに加え、生活スタイルの改善を図ります。経口ビタミンB群(ビタミンB2、 B6、B12、葉酸)投与も行います。長期的な断酒を目指すべく外来通院の継続と共に、病院のデイケアや介護保険を使ったデイサービスなどへの通所など、ご本人の生活スタイルに介入します。長期の断酒と生活スタイルの改善が認知症の進行をストップさせ、中には数年をかけ症状が改善する場合があります。

参考文献
1) Victor M, Adams RA, Collins GH. The Wernicke-Korsakoff syndrome and related disorders due to alcoholism and malnutrition. F.A. Davis, Philadelphia, 1989.
2) 松井敏史, 樋口進. アルコール認知症について. 日本医事新報 No. 4505: 78-80, 2010.
3) 樋口進, 松井敏史, 松下幸生. 厚生労働省精神・神経疾患研究委託費「薬物依存症および中毒性精神病に対する治療法の開発・普及と診療の普及に関する研究」平成20年度総括研究報告書, 2010.

著者
松井 敏史

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