依存症基本知識
アルコール
2. 飲酒と健康問題
アルコールと認知症
適度な飲酒は体によいといわれております。少量の飲酒と認知症に関してはメタ解析といってこれまでの研究をまとめて解析する手法が用いられます。2000年までのメタ解析では飲酒と認知症発症とは無関係とされておりましたが、最近の23研究を合わせた解析では少量飲酒に認知症のリスク低減効果が認められ、全認知症の頻度を2/3にする(全認知症のリスクが0.63 (95% 信頼区間 0.53-0.75))と報告しております1)。
1.過度の飲酒と認知症
少量の飲酒は認知症のリスクを低減する可能性がありますが、アルコール1日30 gを越える飲酒は明らかにそのリスクを増大させます。当院に入院するアルコール依存症の方は認知機能低下が一般的で、60歳台で既に認知症の初期段階にあります。頭部MRI画像では、萎縮性変化(脳室の拡大・脳溝の拡大など)に加え、脳梗塞の頻度は60才台で50%と、健常者高齢者の3~4倍になります。
脳梗塞と飲酒との関連は一般の方にも当てはまります。高齢者住民検診でMRI画像上の径 5 mm以上の無症候性脳梗塞のリスク因子は高血圧・喫煙に並び、習慣飲酒が含まれます。
2. 飲酒と認知症、適量とは?
それでは、適量の飲酒とはどのくらいの量になるのでしょうか。Mukamalらは、約5900人の参加者を平均6年間追跡し、1日あたり2gから12g(ビールで350 mLを週に1本から6本)の飲酒者で最も認知症になる危険性が低いと報告しております2)。しかしこの量は、1日あたりでは350 mLのビール1本に満たない量です。さらに、こういった研究の対象者は健常な方であり、少量飲酒の恩恵は健康問題を抱えている方には当てはまらないと考えたほうがよいでしょう。また、これらの飲酒と認知症との関係は欧米での研究を基にしており、日本の代表的な研究である久山町研究では飲酒は脳血管認知症のリスクになるという結果です。従って、適量の酒とは、酒によって認知症がよくなるという性質のものではなく、適量のお酒を飲んでもよい環境、すなわち適度な運動をし、バランスの取れた食事をし、生き生きとした健康的な生活の結果として許される「節度ある適度な飲酒」(「健康日本21」の項目を参照)を指すのでしょう3)。
参考文献
1. Peters R, Peters J, Warner J, et al.: Alcohol, dementia and cognitive decline in the elderly: a systematic review. Age Ageing 37:505-512, 2008.
2. Mukamal KJ, Kuller LH, Fitzpatrick AL, et al.: Prospective study of alcohol consumption and risk of dementia in older adults. Jama 289:1405-1413, 2003.
3. 松井敏史、吉村淳、遠山朋海、松下幸生、樋口 進 飲酒コントロールによる認知症予防 認知症学(下)日本臨床 69(10): 217-222, 2011.
著者
松井敏史