依存症基本知識
アルコール
5. アルコール依存症
アルコール依存症の症状
アルコールは依存性の強い薬物であり、習慣的に多量の飲酒を続けていると、脳機能や身体反応の変化が少しずつ生じて、依存症が作られていきます。飲酒を続けていると、徐々に身体がアルコールに慣れて、以前と同じ量では酔うことができなかったり、気持ちが楽にならなかったり、眠れなかったりして、満足できなくなります。アルコールへの耐性が生じた状態です。その結果、徐々に飲酒量が増えて、アルコールへの依存度が進行し、アルコールへの欲求や強迫感が高まることになります。
そのようにして数年から10年くらいかけてアルコール依存症が形成されます。アルコールの場合は飲酒への欲求が強まる精神依存と、お酒が切れると身体に不快な反応が引き起こされる身体依存のどちらも生じる可能性があります。いったん依存症になると自分の意志で飲酒行動をコントロールすることができなくなります。飲酒が中心の生活となり、それまで大切にしていた仕事や家庭生活が破綻してしまうなど、悲しい結果を引き起こすことがあります。
1. 中核的な症状
アルコール依存症の中核的な症状として以下の2つが知られています。どちらか1つでも認められる場合にはアルコール依存症が強く疑われます。
1) 飲酒コントロールの障害
飲酒への強迫的な欲求〈アルコールへの精神依存〉のために、「飲み始めると止まらない」「酔いつぶれるまで飲んでしまう」「だらだらと長い時間飲んでしまう」などお酒を飲みだすとお酒に飲まれてしまうようになります。つまり自らの意思でコントロールして飲酒することができなくなります。
さらに進行すると、常に体内にアルコールを維持するために、数時間おきに飲酒を続ける連続飲酒という状態に至ります。連続飲酒は3日程度から数ヶ月続くことがあります。多くの依存症者がこの状態を経験しており、依存症の特徴的な症状のひとつと言えます。
留意すべき点はたとえ何年、何十年ものあいだ断酒を続けていても、少しでも飲酒を再開すると、すぐにコントロールできない飲酒に戻ってしまうことです。依存症になるまでの長年のアルコール曝露により脳機能に不可逆的な変化が生じたためと考えられます。たくわんが元の大根に戻ることがないように、スルメがイカに戻ることがないように、依存症になると病前のように適量でお酒と付き合うことができなくなります。そのため依存症に陥ると、生涯にわたって断酒を継続することが必要となります。
2) 離脱症状
アルコールを摂取した状態に身体が慣れてしまった結果〈アルコールへの身体依存〉、体内からアルコールが切れてくると多様な離脱症状が生じます。俗に言う禁断症状です。飲酒を止めてから1~2日後に、手の振るえ、発汗(特に寝汗)、吐き気、嘔吐、心拍数の増加、高血圧といった自律神経症状や不眠、不安、イライラ感といった精神症状が認められます。重症になると「虫が身体を這っている」といった幻視や物音などの幻聴、意識消失を伴うけいれん発作などが生じる場合もあります。このような不快な離脱症状から逃れるために飲酒を続けてしまう場合もあります。
2. 随伴する問題
アルコール依存症の真に怖い点は、アルコール依存症による中核的な症状だけに留まらず、飲酒中心の生活となった結果、様々な病気や問題が付随してくることです。自身の健康問題、家庭や職場での対人関係の問題、飲酒運転や自殺、他者への暴力などの社会的な問題です。それらを一括してアルコール関連問題と称されます。
個人差はありますが、多量の飲酒によって特有の身体的、精神的な問題が生じてきます(飲酒と健康問題の各項を参照ください)。
お酒を求める時間、飲酒する時間、酔っている時間や酔いを醒ます時間など飲酒に関係する膨大な時間が費やされるため、職場や家庭での役割を満足に果たすことができなくなり、家族や職場の人たちの信頼を失っていくことになります。結果として無断欠勤、失職、家庭の不和、別居、離婚などの問題が発生します。現実の問題に直面することの困難や恐怖感からますます飲酒に逃避し、状況が悪化することになります。
自己評価が低下し、嘘や現実逃避が多くなり、性格の歪みが生じることもあります。さらには酩酊時に自暴自棄になったり、気が大きくなったりして、飲酒運転や暴力、警察沙汰といった社会的な問題を引き起こすこともあります。
これらのアルコール関連問題は強迫的な飲酒という幹から生じた枝葉のような存在であり、お酒という根幹を断つことにより自然に解決していくことが多く認められます。個々のアルコール関連問題に場当たり的に対処するのではなく、根幹となるアルコール依存症に正面から向き合い、断酒を始めることが求められます。
著者
吉村 淳