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アルコール依存症の診断

 アルコール依存症の診断基準として、WHO(世界保健機関)が作成したICD-10(国際疾病分類第10版)とアメリカ精神医学会が考案したDSM-Ⅳと呼ばれる国際的な診断基準があります。アメリカ以外の国ではICD-10が主に使用されているようです。どちらの診断基準も信頼性や妥当性の高さが実証されています1)。

  国内の医療機関において一般的に用いられるICD-10による診断ガイドラインはアルコールや覚せい剤など薬物全般に対応する依存症についての記載となっています。診断項目は下記のように6項目あります。過去1年間に1ヶ月間以上、もしくは1ヶ月間未満であれば繰り返して、3項目以上がともに該当した場合に依存症と診断がつきます1,2)。

ICD-10による「依存症候群」の診断ガイドライン


  1. 物質を摂取したいという強い欲望あるいは強迫感。
  2. 物質使用の開始、終了、あるいは使用量に関して、その物質摂取行動を統制することが困難。
  3. 物質使用を中止もしくは減量したときの生理学的離脱状態。その物質に特徴的な離脱症候群の出現や、離脱症状を軽減するか避ける意図で同じ物質(もしくは近縁の物質)を使用することが証拠となる。
  4. はじめはより少量で得られたその精神作用物質の効果を得るために、使用量を増やさなければならないような耐性の証拠。
  5. 精神作用物質使用のために、それにかわる楽しみや興味を次第に無視するようになり、その物質を摂取せざるをえない時間や、その効果からの回復に要する時間が延長する。
  6. 明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、いぜんとして物質を使用する。たとえば、過度の飲酒による肝臓障害、ある期間物質を大量使用した結果としての抑うつ気分状態、薬物に関連した認知機能の障害などの害、使用者がその害の性質と大きさに実際気づいていることを(予測にしろ)確定するよう努力しなければならない。

 

  項目A) B) は精神依存に基づく飲酒への欲求、飲酒コントロールの障害を表します。項目C)は身体依存から生じる離脱症状を指摘しています。項目D)にはアルコールに身体が慣れることによって、身体のアルコールへの反応が鈍くなり、耐性が形成されることが挙げられています。 
項目E)は依存症の定義となるような病的な状態であり、アルコールなどの薬物を摂ることが生活の中心となり、日常の家庭生活や社会生活に支障を来たすような状態を指します。項目F) は飲酒によって健康問題が生じていることを自身が知っているにもかかわらず、それでも飲酒を続けるような状態を示します。飲酒による有害な結果を無視して飲酒を続けており、飲酒に囚われ、正常な判断力が奪われていると解釈できます。

  世界的に広く用いられている診断基準ですが、操作的、画一的な印象は否めず、批判もあります。実際の医療現場においてはこれらの診断基準に加えて、アルコール関連問題の程度や飲酒により社会的または職業的な生活がどれほど脅かされているかなどを考慮に入れて、総合的に診断されます。

参考文献

  1. Hasin D. Classification of alcohol use disorders. Alcohol Res Health. 2003; 27(1): 5-17. 
  2. WHO. The ICD-10 Classification of Mental and Behavioral Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines, World Health Organization, Geneva,1992(ICD-10精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン,監訳融 道男 他)

著者
吉村 淳

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