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依存症基本知識

アルコール
3. 飲酒と社会問題

飲酒と自殺

飲酒と自殺の関係について、自殺直前の飲酒、習慣的な飲酒と自殺の関係、依存・乱用と自殺の3点について説明します。

1. 飲酒直後の自殺 
自殺で亡くなった方の体からアルコールが検出されることは珍しいことではありません。日本の調査でも自殺例全体のアルコール検出率は32.8%で毒物死、焼死、轢死、墜落死で高濃度のアルコールが検出されています1)。海外の調査でも、自殺した人からは平均で37%からアルコールが検出され、自殺未遂で救急病院を受診した人からは平均で40%の人からアルコールが検出されています2)。このように自殺の直前に飲酒する割合は高いことが知られていますが、その理由としてa) 飲酒が絶望感、孤独感、憂うつ気分といった心理的苦痛を増強する、b) 飲酒が自分に対する攻撃性を高める、c) 飲酒は人の予想に変化をもたらして死にたい気持ちを行動に移すきっかけとなる、d) 視野を狭めて自殺を予防するために有効な解決方法を講じられなくなるといった心理的変化が提唱されています2)。

2. 習慣的な飲酒と自殺 
中年男性を7年以上追跡した国内の調査では月に1-3日程度飲酒する人が自殺で死亡する危険性に比べて非飲酒者および週に414グラム(日本酒約18合に相当)以上の大量飲酒者が自殺で死亡する危険性は2.3倍と高く、少量ないし中等量の飲酒では自殺による死亡の危険性は低くなるという結果でした3)。国内のもう一つの男性の調査では上述の調査とは結果がやや異なり、飲酒量に比例して自殺で死亡する危険性が高くなるという結果でした4)。いずれにせよ、二つの調査では大量の習慣的な飲酒が自殺の危険を高める点では共通した結果でした。

3. アルコール乱用・依存症と自殺 
アルコール依存症の人は依存症ではない人と比較して自殺の危険性が約6倍高いとされています。特にうつ病の合併、離婚や別離といった対人関係のストレス、社会的サポートの欠如、非雇用、重篤な身体疾患、単身生活といった要因が自殺の危険性を高めるとされます。また、アルコールの乱用そのものも自殺の危険性を高めます5)。 
一方、自殺で亡くなった人にうつ病だった人が多いことは有名ですが、アルコール依存症はうつ病の次に頻度が高く、自殺で亡くなった人の15-56%にアルコール乱用または依存がみられたと報告されています。

参考文献

  1. 伊藤敦子, 伊藤順通. 外因死ならびに災害死の社会病理学的検索 (4) 飲酒の関与度. 東邦医会誌 35: 194-199, 1988.
  2. Cherpitel CJ, Borges GL, Wilcox HC. Acutealcohol use and suicidalbehavior: A review of the literature. AlcoholClinExp Res 28 (5 Suppl): 18S-28S, 2004.
  3. Akechi T, Iwasaki M, Uchitomi Y, et al. Alcoholconsumption and suicideamongmiddle-aged men in Japan. Br. J. Psychiatry 188:231-236, 2006.
  4. Nakaya N, Kikuchi N, Shimazu T et al. Alcoholconsumption and suicidemortalityamongJapanese men: the OhsakiStudy. Alcohol 41: 503-510, 2007.
  5. 松下幸生, 樋口進. アルコール依存における自殺防止. 臨床精神薬理 9: 1569-1576, 2006.
  6. Pirkola SP, Suominen K, Isometsä ET: Suicide in alcohol-dependentindividuals. CNS Drugs 18: 423-436, 2004.

著者
松下 幸生


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